先日、東京圏外で、まだSalyuのライブを観た事が無いSalyuファンの方から「Salyuの声量はどうですか?」と質問を頂いた。その時は「声量はありますよ」と応えたのだが、実際にライブでSalyuの歌声を改めて聞き、"これは声量がある、というのとは違うのではないか・・・"と思い直した。
では、それは何か・・・?
オーディオのスピーカーについての業界用語で「遠鳴りがする」という言葉がある。
少し難しい話だが、スピーカーのスペックを計る重要な要素のひとつとして「出力音圧レベル」というのがある。これは人間の「声量」にあたるもので、dB/w(m)で表現される。この「出力音圧レベル」が高い程、効率が良いスピーカー、低ければ効率の悪いスピーカーと言う事になる。この「出力音圧レベル」は3dB/w(m)の差で、ほぼ2倍もの差が生じる。例えば、96dB/w(m)のスピーカーで、アンプの出力100wで出す音量を93dB/w(m)のスピーカーで出そうとすると、アンプの出力は200w必要になる。だから、通常ならホールのステージ等で同じ出力で鳴らした場合、「出力音圧レベル」が高いスピーカーの方が、大きな音ではっきりとホールの隅々迄聞こえる筈である。
ところが、「出力音圧レベル」が若干低くても、良くホールの隅々迄音の通るスピーカーというのも存在する。こういったタイプは欧米のスピーカーに多く、スペック以外の何かが働いていると思われる。それは周波数特性なのか、分割振動の発生周波数なのか、理由ははっきりと判らないが、確かに存在していて、そんなスピーカーを指して「遠鳴りがする」と呼ぶのである。
Salyuの声も正に「遠鳴りがする」タイプ-だという気がする。Salyuの高音の美しさは何度も書いている通りだが、彼女の歌声は浪々と歌い上げる「声量」というよりも、この「遠鳴り」だと思
う。
声質そのものがかん高い周波数ならば、良く通る音に「感じられる」という事もあるが、Salyuの声質のファンダメンタルは比較的低いのでこれにも当らない。
そして最近のSalyuは椅子に座って、前かがみで唄うスタイルが多い。この姿勢も音量を稼ぐという面から見れば不利な筈だ。座って唄う姿勢についてのコメントは、また次の機会に譲るが、このスタイルから発声される声は、高音の美しさに加えて、良く響き魅力的だ。
力で圧す「声量」とは違った「遠鳴りのする」声も、Salyuを神秘的に見せている一端なのかもしれない。 |